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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)158号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

二 取消事由についての判断

1 本願考案の構成及び効果について

(一) 前記争いのない本願考案の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願実用新案登録願に添付の明細書及び図面)を総合すると、本願考案は、一般の利用者が自由な時間に自由な量の玄米を持参して精米を自動的に行え、かつ、特別の管理者を置かずに、一般の利用者にとつても安全な精米操作ができるような精米装置の提供を目的として、実用新案登録請求の範囲に記載したとおりの構成を採用したものであること並びに本願考案の前記構成に対応した効果に関連する事項として、考案の詳細な説明の項には、次のような記載のあることが認められる。

<1> 「本考案は無人の建物本体に設置しておくと、利用者が都合の良い時間に玄米を持込み、その玄米の量に応じてコインを投入すれば自動的に精米作業が行なえる」(本願明細書六頁八行ないし一一行)

<2> 「使用者のいる正面操作室には危険な駆動部等が露出しないので極めて安全であり、精米作業に従事すべき管理者が不要となるので精米コストが低廉となるなどの実用的効果がある。」(同六頁一一行ないし一五行)

<3> 「本考案装置は故障が極めて少ない特徴もある。」(同六頁一六行ないし一七行)

<4> 「機械室2へは正面操作室1の扉17を開いて入ることができるが、平常時はこの扉17を施錠しておくので無断立入を禁止することができ、機械室2中には精米機の駆動部分18、電源盤19及びすくい上げホツパー9等の危険部分を設置し、修理や故障の際は機械室にて作業が行なえるようになつている。」(同四頁一〇行ないし一六行)

<5> 「米糠貯蔵室3中には精米機より延伸した米糠送出ホース20の先端が設置され、精米機より発生する米糠を米糠貯蔵室3内に収納できる。米糠が大量に貯蔵されたときは、扉21を開いて外へ搬出する。」(同四頁一七行ないし五頁一行)

<6> 「自動精米機を使用する者は自己の持参した玄米10を玄米置台4を利用して玄米投入孔5内に投入し、コインメツク8に所要枚数のコインを投入すると電源盤19のスイツチがONとなり機械室に設置したインダクシヨンモーター(図示しない)に電気が通じて開閉シヤツター6を開き、すくい上げコンベア9、精米機7にも電気が通じ、玄米はすくい上げコンベア9及びホツパー11を介して精米機中に搬送され、精米機より排出された精米が精米受入タンク12中に貯留することとなる。ついでコイン投入により始動したタイマー(図示しない)が一定時間経過後停止し、開閉シヤツター6を閉じ、数秒間経過後すくい上げコンベア9と精米機の作動を停止させる。」(同五頁二行ないし一七行)

<7> 「これは(精米機が停止する直前に開閉シヤツターが閉状態となること)コインメツクの料金が切れて、精米機が停止したとき精米機の中に玄米を取り残さないようにするためであり、もし精米機中に玄米が残つていると精米機を再度駆動させたとき負荷が大きくなりすぎて機械故障の原因となるからである。」(同三頁八行ないし一三行)

(二) ところで、本願考案の明細書に記載された右の<1>ないし<7>の事項のうち、<1>の効果は、本願考案の構成全体から達成される事柄であり、<2>及び<4>の効果は、前記構成(1)及び(2)(本願考案の要旨における符号)の構成と通常の実施態様として予想される事項に基づいて奏されるものと認められる。また、<5>の効果は、前記構成(1)及び(4)により奏される効果と認められる。右の<3>の「故障が少ない」という記載については、種々の原因による故障が想定されるところ、本願考案においては開閉シヤツターが精米機から離れたところのすくい上げコンベアー入口に設けられた玄米投入孔の下端にセツトされている(前記構成(5))ことから精米機の始動時に駆動モーターへ過大な圧力がかかることは避けられ、これによる故障の発生は少なくなるものと推認され、また三室に仕切られることにより機械室への米糠あるいは塵埃の流入が少なくなるだけ、これらの機械部分への付着に起因する故障のおそれも少なくなることは推測される(これらの効果が、当業者において適宜なし得る程度の構成上の変更に伴い、普通に予測される範囲のことであつて、格別の効果といい得ないことは相違点(1)(2)の判断において詳述するとおりである。)が、前記<6><7>に記載された「開閉シヤツター」と「コンベアーと精米機」との停止時期を異ならしめたことによる効果は、一実施例の奏する効果であつて、本願考案の固有の効果と認めることはできない。なぜなら、本願考案の実用新案登録請求の範囲における「コインメツクと玄米投入孔下端にセツトした開閉シヤツターを電気的に関連させたこと」との記載からは、「開閉シヤツター」と「コンベアーと精米機」との駆動停止関係が始動スイツチを兼ねるコインメツクと電気的に関連づけられていることを越えて、さらに右のような技術的事項を認識理解することはできないからである。

2 取消事由1について

(一) 第一引用例に審決認定のとおりの記載があること及び本願考案と第一引用例記載の技術的事項との対比認定については当事者間に争いがない。

当事者間に争いのない第一引用例の記載及び成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)を総合すると、第一引用例も本願考案と同じく精米装置を時間貸しするためのものであり、その精米機においても、一般の利用者が精米すべき玄米の量に応じて所定の額のコインを投入すると、コインタイマーが作動することによりモーターを回転させるとともに電磁ロツク装置によつてシヤツターも開放できるようになり、精米機が一定の時間駆動して自動的に精米をするものであることが認められる(第一引用例二頁末行ないし三頁一四行参照)(精米機を駆動するモーターとシヤツターとの駆動停止関係がコインタイマーと電気的に関連づけられていることはいうまでもない。)から、一般の利用者が都合の良い時間に自由な量の玄米を持参しコインを利用して自動的に精米を行える精米装置を提供しようとするものであつて、本願考案と基本的な目的ないし課題を共通にしたものであり、かつこれを実現するために審決認定のとおりの共通した構成を採用したものであることは明らかである。そして、第一引用例にはこれを設置使用する場所についての直接の記述はないものの、前記のような精米装置であつて一般の利用者が玄米を持参し、通常所定の時間待機して精米の終わるのを待つものとみられ、また、従来の精米装置も建物の中に置かれ屋内において精米作業がなされてきたことからみても、第一引用例に記載された精米装置も、建物の中に設置され使用されるものとみるのが常識的であり、このような自動精米装置が公知のものである以上、これを一個の建物内に設置するかあるいは建物の一部分に設置するかは適宜選択し得ることとみることができる。また、前記認定に係る第一引用例の精米装置の構成及図面(二)をみれば、時間貸しのできる精米装置として、第一引用例の精米装置にも、一般の利用者が自ら操作するための場所、すなわちコイン投入のための「コイン投入口」、「玄米投入口」及び「白米取出口」などのある利用者が建物内に入つて操作すべき場所と精米(米搗)機等の機械装置が設置される部分及び白米と分離された米糠を分離貯蔵すべき部所ないし部分のあることは明らかである。

(二) 審決指摘のように第一引用例には、本願考案における「一個の建物本体を正面操作室、機械室、米糠貯蔵室の独立した三室に仕切る」構成(前記構成(1))についての記載がない(相違点(1))が、原告は、この相違点(1)についての審決の判断について、本願考案の効果が、各引用例や周知事項から予測し得ないものであることを根拠として、審決の相違点(1)についての判断の誤りを主張するので、この点について検討する。

ところで、不特定多数の利用者がコインや硬貨等を使用して物品の購入や特定のサービス等を受けるいわゆる自動販売機や自動供給装置等は、今日広くみられるものであるが、駅における乗車券の自動販売機やコインランドリーにみられるように、不特定多数の者が利用する機械装置においては、当然のことながら、利用者の危険防止と機械装置の故障を防止するという観点から、利用者が接し得る部分を必要最小限(どうしても利用者の操作にまかせなければならない部分)にとどめ、その他の機械の駆動部分には利用者が接し得ないようにするために壁などで仕切つて内部に納めることは常套手段であり(この点は原告も認めるところである。)、また、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によれば、不特定多数の者の利用を予定した第二引用例にみられる「精米機コイン投入自動運転装置」においても、利用者の危険防止と故障回避の観点からの配慮がなされ、利用者が接し得る操作部と機械駆動部とを区画して仕切り、駆動部分には利用者が触れられないようにしていること(機械駆動部分に当たる電動機及び調車と利用者の操作するコインタイマーや排出漏斗とはそれぞれ仕切りされ配置されている。)が認められる。このようなことからして、第一引用例記載の精米装置を建物内に設置して不特定多数の者の利用に供するときには、当然のこととして、利用者の危険を防止し、また、利用者の行為に起因する故障をできるだけ避けるために自動精米装置において利用者自らが行わなければならない玄米、コインの投入及び精米ずみのものを取り出すための機構のみを利用者の触れ得る所に置き、機械駆動部などは仕切りを設けて利用者が触れることができないようにすることは容易になし得ることである。したがつて、本願考案における前記構成(1)のうち、正面操作室と機械室とを仕切ることとしたことには、格別の考案力は認められないし、これによる前記<2><4>の効果も利用者の安全を図り、かつ外部の者の侵入を防止するという考慮から当然予測できる範囲のことであるといわざるを得ない。また、精米装置は、本来、玄米を精米(米搗)することによつて白米と米糠とに分離する装置であり、また、精米ずみの精白米と米糠とはそれぞれ別個に貯蔵保管され、それらがそれぞれの用途に用いられることは当業者にとつて自明なことである。また、玄米と分離された米糠の具体的な貯蔵保管の方法をみるに、たとえば、前掲甲第四号証(第二引用例)によれば、第二引用例の「精米機コイン投入自動運転装置」においても、米糠貯蔵部(箱状部分)は搗精部を構成する搗精軸の下部に配置され、白米が排出される排出漏斗とは分離されていることが示されているのである。このようなことからみても、米糠貯蔵部を、利用者の操作する部分や機械駆動部分とは仕切りにより区画し、それによつて米糠の飛散に伴う弊害、たとえば利用者の手足や衣服への付着、機械部分への付着を回避することは当業者にとつてきわめて容易になし得ることであり、また、建物内に自動精米機を設置して一般の利用に供する場合にその米糠貯蔵部所を仕切るに当たつて、建物自体の一部分を仕切ることによつて「米糠貯蔵室」とすることは、一般の貯蔵においても、建物の一部分を貯蔵室として利用することが普通に行われていることに照らして、きわめて容易に想到し得ることというべきである。また、本願考案においては、「米糠貯蔵室には精米機から延伸する米糠送出ホースの先端を設置」(前記構成(4))する構成を採用しているが、一般に流動物を移送するに当たつて、ホースを用いることは広く一般に行われていることであるから、仕切られた米糠貯蔵室にホースを用いて米糠を移送することは当業者にとつて適宜なし得ることとみられるので、これによる前記<5>の効果も当然の予測される性質の事柄である。したがつて、米糠貯蔵室を仕切りで独立させることによつて米糠の機械部分や利用者への付着が少なくなり、原告の主張するような米糠付着による支障が少なくなる効果が期待できるとしても、前記説示のとおり自動精米装置の各機能の部所を区画し仕切ることがすでにに詳述したような種々の配慮から容易に想到し得ることであること及び米糠が飛散するものであることに鑑みれば、これらの効果は当業者が当然予測し得る事柄にすぎないというべきである。右のとおりであるから、原告が相違点(1)についての判断の誤りをいうに当つて、本願考案の効果として主張する事柄は、いずれも、当業者が容易になし得る構成上の工夫から当然予測され得ることにすぎず、本願考案の奏する効果の観点から、相違点(1)についての判断の誤りをいう原告の主張は採用の限りでない。

3 取消事由2について

前掲甲二号証(本願明細書及び図面)によつても、本願明細書中には、本願考案において「開閉シヤツター」をすくい上げコンベアー入口に設けられた玄米投入孔下端にセツトしたこと(構成(5))による効果についての記載は何ら認められないが、原告が主張するように、「開閉シヤツター」が精米(米搗)する機械部分から離れたところの玄米投入孔の下端に置かれている構成に照らせば、精米機を始動して開閉シヤツターが開いても、玄米は精米(米搗)する機械部分に到達するまでに時間がかかり、玄米は右の機械部分が駆動モーターにより正常に回転を開始した後到達することが予想されるので、駆動モーターに過大な圧力がかからないことになり、これによる駆動モーターの故障の発生も少なくなるという効果が期待できるものと考えられる。しかしながら、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、「コイン投入口(9)にコインを投入すればコインタイマー(8)が作動することによりモーター(3)を回転させるとともに電磁ロツク装置(7)に通電する。したがつて、ツマミ(12)を引けばシヤツター(5)は引き出されて開放すると同時に電磁ロツク装置(7)の作用によつて開放したままとなるからタンク(10)内の玄米を精米機(1)により精米して取出口(11)より精白米を取出すものである。」(二頁末行ないし三頁八行)との記載があることからして、第一引用例の時間貸し精米装置においても、精米(米搗)部を作動させるモーターとシヤツターの開放の時期を異ならしめ、該シヤツターが開放され玄米が精米部に落下するときには、モーターはすでに正常に回転しているものと認められる。したがつて、第一引用例の精米機においても、始動のときに駆動モーターに過大な圧力がかからないようにする考慮が尽くされているのであるから、本願考案の右の効果を格別のものとみることはできず、本願考案における開閉シヤツターの配置位置に予測しがたい効果をみいだすことはできない。また、原告は、本願考案の開閉シヤツターはその駆動手段としてインダクシヨンモーターを用いるものである旨主張するが、開閉シヤツターの駆動手段については実用新案登録請求の範囲に何ら限定規定されていないのであるから、右の主張は、本願考案の構成に基づかない主張であり採用することはできない。したがつて、相違点(2)についての審決の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものとしてこれを棄却することとする。

〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。

(1)一個の建物本体を、正面操作室、機械室、米糖貯蔵室の独立した三室に仕切り、(2)正面操作室には玄米投入孔と精米機本体と精米受入タンクと始動スイツチを兼ねるコインメツクをそれぞれ設置し、(3)機械室には玄米投入孔内に投入された玄米を精米機のホツパーに搬入するすくい上げコンベアー及び精米機の駆動部分を設置し、(4)米糖貯蔵室には精米機から延伸する米糖送出ホースの先端を設置し、(5)前記コインメツクと玄米投入孔下端にセツトした開閉シヤツターを電気的に関連させたことを(6)特徴とする自動精米装置(番号(1)ないし(6)は便宜上付したもの)。

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